最近労働生産性についての記事、特に日本における低い労働生産性がピックアップされる事が多くなっているように思う。
日本における労働生産性を高める方法として、自分が以前から主張しているのは飲食業、ホテル業などのサービス業における「チップ制度」の導入である。これは中小企業、個人経営の店なら経営者の一声で明日からでも導入出来るはずだ。
海外、特に欧米では、サービス料等と称して、消費税と混ぜて積極的(強制的)にチップを徴収するレストランも普通にあるが、日本では何も積極的に徴収しなくとも、チップ制度を導入するだけで生産性を高めることが出来るかと思う。
加えて、飲食、ホテル業界等におけるチップ制度の導入がサービス業全体の生産性の低さを改善するきっかけになるはずだ。
下記でその理由を詳しく述べていきたいと思う。
目次
生産性の上がる機会を奪うサービス業界
チップ制度を導入する事で得られる生産性の増加
エリアや地域にもよるが、欧米や一部の東南アジアの国では、レジやホテルのフロントに「チップボックス」というものが置かれている。
チップボックスはサービスに対する感謝や対価をお金で渡す機会を設けるだけでなく、小銭を持ちたくない人が「小銭を捨てる」ために置かれている。
財布やスマホの他にも様々な荷物を持って出かける場合、カバンを持っていく人もいるが、中には手ぶらで出かける人もいるだろう。こうした人達はポケットに入れる財布も出来るだけコンパクトにしたいという理由から、小銭の入らないマネークリップだったり、コンパクトな財布を愛用している。
また、小銭は両替の際に利用出来ないので、外国人観光客は日本から出る前に使いたいと思っている人も多い。こうした需要を満たしたことで売上を伸ばしたガチャも最近話題になった。
小銭を捨てたり、使う機会を作らないことは労働生産性を高める機会も奪うことになるのだ。
確かに、1ドルから紙幣になるアメリカと違い、日本では小銭でも4ドルに相当する500円玉もコインになってしまう。ただ、50円玉以下は丸ごと捨てたいと思っている人もいるだろう。
いくら50円以下の小銭でも、複数の客が訪れて1時間に1000円のチップが集まれば、それだけでも大きな時給アップとなる。その時間働いていた従業員に分配されれば、1時間で1000円のチップがあったとして、5人が働いていれば時給は200円アップするのである。パーセンテージで考えればこれだけで20%の増加である。
バイト集めや確保に苦労している店は多いが、チップ制度の導入は労働生産性を上げ、人材を確保することも容易にするだろう。
飲食やホテル業界とは違うが、自分が引っ越しバイトをしている時は客からご祝儀をもらうことが多々あった。某ブラック企業として有名な引っ越し屋だったが、ご祝儀は社員もバイトも公平に分ける事を厳しく決められていたので、3件に1件ぐらいは1000円以上のご祝儀をもらうことが出来た。
この辺も地域差が大きいが、東京のタワーマンションへ引っ越すお金持ちからは1人1万円ずつもらったこともある。もちろん給与も別途発生するので、額面以上に労働生産性の高いバイトになっているのである。
チップ制度を導入しない事による様々な損失
チップ制度を導入しないことによる損失は、労働生産性が上がる機会を奪うことだけではない。
自分はカフェやレストランから出る際、サービスが良かったり、料理が美味しかったらきちんと口に出して「美味しかった」と伝えるようにしている。ただ、お礼を言うのは恥ずかしいという気持ちもあるし、店の雰囲気によっては満足しても何も言わず出て行ってしまうこともある。
こういったサービスに対する感謝を表現する方法としてもチップが使えるだろう。チップ制度を導入しないことは、一部の人の感謝を伝える機会を奪っているとも言える。労働生産性だけでなく、様々な利益を奪ってしまうことにも繋がるのだ。
日本でチップ制度を導入する店がほぼ無いのは、海外の習慣に接する機会が全くないからというのも大きいだろう。ただ、外国人観光客の多い東京、大阪、京都にある店は日常的にチップを貰う機会があるのに、チップの受取を未だ禁止にしている所もある。
チップには公平性など様々な問題がある。それでも従業員で平等に分けるようにしたり、売上として記帳したり、事前に取り入れを決めておくだけでチップをもらった際に生じる問題は十分解決出来るだろう。
社会的な観点ではこの業界の労働生産性を上げる事に繋がるし、経営者側も人材確保の点でチップ制度の導入は検討すべきかと思う。
チップ制度導入で変化する客側の「サービス」に対する考え方
少し前にPCデポが高額サポートを導入したことで炎上していた。
これは欧米のレストランで消費税とともにチップを強制徴収する仕組みと似ているが、この費用が高額だったことでクレームが大きくなり、炎上したかと思う。
PCデポが多くの間違いをおかしたのは間違いない。また、会社が十分な利益を上げていたにもかかわらず、社員の給与に反映されていなかった点も是正すべきだろう。
ただ、無償と思われがちなサービスに対して消費者側に料金を要求し、きちんと利益を伸ばしていた点はもう少し注目されても良いかと思う。労働生産性の点で見れば、間違いなく上げる方向に向かっていたからだ。
海外では商品が安ければ悪いというのは当然のことで、提供するサービスに対する対価も低ければ質が下がるのは当たり前だと思っている。
イギリス史上最悪360億円盗難事件、ビル警備員「それ以上詳しく調べるほどのお給料はもらっていない」と。イギリスあるある!笑 pic.twitter.com/TjH4rM6ass
— Yo Okada-Howells (@yoookd) 2015年4月10日
日本はサービスの水準を上げることで観光客を含めた客側に多くの満足をもたらしている。しかし、こうした高品質なサービスが価格に含まれていると思っている日本人は海外で提供されるサービスに不満を持ちやすい。
基本的に日本人の多くは不満を持っても我慢するので、海外では客として好まれる傾向にある。ただ、一部の我慢できない人達は海外でもモンスタークレーマーになるため、日本人は扱いづらいと感じる現地人もいるのは事実だ。
タイでは、レストランでオーダーを取りに来るのが遅いだけでキレているおっちゃんだったり、ホテルのフロントで部屋に残されたゴミでキレるおっちゃんを見たことがある。
特に関西人はこうしたサービスに対してうるさく、我慢できない人が多いように感じる。関西では店員の態度が気に食わないという理由だけで、店長やバイトに2、3時間説教する人も珍しくない。
これら不満もサービスに対して金銭的な負担を消費者側に要求するのが普通の社会になったらどうだろう?客側はサービスに対する考え方が変わり、理不尽に時間的な拘束をするモンスタークレーマーも減少するはずだ。
変化するのは消費者とサービス提供者の関係だけではない。労務という従業員の経営者へのサービス提供に対して、金銭的な結びつきをより意識する人も増えるだろう。そうなれば、サービス残業が普通の労働生産性が低いブラック企業は更に圧力を感じることになる。
サービス料と題して消費税と一緒に強制的にチップの徴収をするのは日本ではまだ早いかと思う。しかし、チップボックスなど、サービスに対して金銭的な対価を与える機会を作ることは、今後生産性を上げる様々なきっかけを与えるのは間違いないだろう。
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