タイのホテルスタッフ。タイはサービスの質はともかく、フレンドリーで愛嬌のある人が多い。
海外へ行くと様々な文化とぶつかる。この中の1つ「チップ」に対する考え方は日本人の多くが戸惑うだろう。
そもそもチップは人のサービスに対する対価(お礼)として渡すものかと思う。しかし、チップを渡さない日本以上に満足できるサービスが海外では殆ど提供されない。
日本では無料で受けるサービスのクオリティが高く、これを基準に考えてしまうと、海外のサービスにおいては、納得した形でお金を出したいとは到底思えないのである。
むしろ、海外のサービスではチップをあげたくないと思うのが普通だ。こうした考えのためか、海外ホテルの予約サイトの口コミでも、細かい文句を入れないと気が済まない日本人は多いようだ。
チップはホテルやレストランのサービスに対するお礼の意味合いがある。しかし、クオリティの高いサービスでも、日本では無料で当たり前と考えている人が多い。
チップの文化が無い日本へこのチップ制度を導入することに対しては様々な反対意見もあるかと思う。それでも日本へこそ、この海外で生まれたチップ制度を導入すべき理由を述べて行きたいと思う。
海外のチップ制度を日本へ導入すべきである3つの理由
チップ制度を日本へ導入すべき理由として
1.機会損失を避けれる
2.サービスの対価を国際基準で評価するため
3.仕事のやり甲斐が増える
以上の3つがあげられる。
下記でそれぞれ詳しく述べていきたいと思う。
1.機会損失を避けれる
お金をサービスの対価として渡したいのにそれを拒否する行為について、普通に考えれば避けなければならないだろう。今でもホテルによっては、まだまだお客さんからの現金供与を拒否するように言われているところがある。
海外ではレストランの価格にサービス料をプラスして強引にチップを搾取するところもある。日本ではさすがにこれは馴染まないように思える。従って、消極的な機会損失を逃さない方法として、レストランならレジにチップボックスを設置する事から始めるのが良いだろう。海外でもこういったチップボックスを設置している店は多い。
レジ横に置くだけで、お釣りで硬貨が出た場合に積極的にチップボックスへ入れて貰える。チップボックスのお金は働いている従業員に時間に比例して配分されるのが一般的だ。
つまり、時給などの給料に上乗せしてもらえるのだ。
チップボックスによる配分も給与額を数十%押し上げてくれるところもある。海外ではチップによる収入の方が多かったり、トイレでおしぼりを渡すボーイ等は給与がチップだけという人もいる。
チップを渡すのは多くが欧米系観光客かと思う。彼らは良いサービスには「お礼」の気持ちとして、日本語で伝える代わりに、感情表現として渡している人もいるだろう。素直に受け取ればお互い気持ちよくやり過ごせるのにわざわざ拒否すれば、何となく不快な感情を抱く人も出てくるはずだ。
チップという考えのない日本では目立つように工夫しないとなかなかチップは入れてもらえないかもしれない。しかし、客側である我々一般人も少しずつ認識を変えることから始めるべきだろう。
チップボックスぐらいは経営者の一声で設置が可能なのだろう。優秀な人材を確保するためにも、機会損失を避けることで、増えた収入を従業員へ配分すべきなのだ。
2.サービスの対価を国際基準で評価するため
現在外国人観光客の数は急激に増えているが、アパグループの代表を務める元谷氏は
人口が10億人を超える中国やインドの中間層がさらに増えれば、欧米に行くより近い日本を訪れる外国人の数は年間2000万人どころでなく、同5000万人~6000万人になってもおかしくないと思う
と述べており、5000万人~6000万人、今の3倍になっておかしくないとしている。
今でも、外国人観光客と接する機会の多いサービス業ほど忙しくなっている。しかし、現状日本のサービス業の給与は、その負担やクオリティを考慮すると、欧米などに比べ安過ぎる。
以前の記事でも触れたが、スイスのマクドナルドは時給が2000円である。確かに、給与はその国の物価にも大きく影響を受けるので単純に比較はできない。
日本でも、ファストフード店の時給を1500円以上に上げるべき、とデモが行われたのは記憶に新しい。
以前欧米を旅行した時、お会計の際、携帯をいじっている従業員がいて、メッセージを打ち返してからようやく対応してもらったことがある。仕事中に携帯をいじること自体日本ではあり得ない。しかし、メッセージを送るまで待たされたことに驚き、笑うしかなかった。
無愛想でも無難に対応してもらえば良い方で、慣れてしまえば、むしろマイナスで無いことに感謝出来るほどの低クオリティである。
スイスのマクドナルドの時給が2000円なので、日本のよりサービスの高いサービス業は3000円程度の評価がなされても良いかと思う。
この人材の低コストが外国人観光客による安くて素晴らしいサービスをもたらしているかもしれない。そして、これにより外国人観光客が増えれば、いずれは賃金の上昇に繋がる事もあり得る。
しかし、まだまだ経営者の私腹を肥やすために安く人件費が抑えられているところもあるだろう。
外国人観光客が日本の人口の半分ぐらいまで増えていく中で、日本で落とされるお金の量も増えて行く。チップの考え方を積極的に進めれば、サービスに対する直接的な報酬になるので、現在の過小評価からもっと世界基準に近づいていくと思うのである。
3.仕事のやり甲斐が増える
上の2つはサービスを提供する従業員への報酬が増える事を期待するものだ。2倍とか3倍とかそのぐらいの報酬増が望めるものではない。なぜなら、そもそもチップで渡される額というのはそこまで多くないからだ。
上記記事でも紹介しているように、タイでのチップは大体1回で20バーツ、日本円で約67円だ。1時間で40バーツ、時給換算で+134円と考えれば確かに大きいようにも感じる。しかし、感謝されたと感じることで従業員のモチベーションにも繋がる利益の方が大きいと思うのである。
サービスに対する感謝を言葉にする機会が少ない日本にこそ、マッチするような考え方だろう。
チップ制度をどのように導入するか?
日本へ来る外国人に比べ、海外へ行く日本人旅行者は増加しているわけではないので、今後更に国際的な感覚を身に付けた日本人が増えて、自発的に客側からチップを渡してくれるようになるとは思えない。やはり、制度としてわかるように店側から始めなければならないだろう。
まず、チップとは従業員に対するサービスへの対価であることを強調する。リピーターが多い店であれば、価格を下げてその分のいくらかを従業員に渡してもらうよう、メニュー等に記載しても良いだろう。ポイント制度を利用してチップを送れるようにしても面白いかもしれない。
チップの文化に慣れている海外旅行経験が豊富な外国人は日本のチップ導入は当然と多くの人が思ってくれるだろう。個人的には過剰と思えるぐらい日本のサービスのクオリティは高い。
もちろん、日本のサービスに不満がないわけではない。例えば、日本の場合、ホテルのチェックイン時間に融通が効かない。タイではチェックインが14時でも12時、早いところは午前中からでも部屋へ入室させてくれる。
空いてる部屋があるならチェックイン時間前にも先に入室させてほしいと東京のホテルに泊まる際には毎回思っていた。
それ以外の清掃や接客部分をはじめとして、海外よりサービスが高いのは間違いない。部屋が狭い点は「安かろう悪かろう」の考えが定着している外国人なら受け入れるのは容易なはずだ。
日本のサービス・クオリティが普通で、チップなど必要無いと考えている人もいるだろう。客は神様と思っているのか、ちょっとした事で従業員に説教をしたり、中には土下座を強要して捕まった人もいた。
こういう人はチップを渡さないくせに、制度を批判したりする。新しいことをする上で避けるのは難しい部分もあるので、どのような考えでチップを導入したか考えをきちんと伝えるクレーム対策用のマニュアルを作る必要もあるかもしれない。
自分も日本で育ったため、チップを渡すという行為は面倒で、外国でのこうした制度は無くなってほしいと思っていた。それでも海外へ頻繁に行くようになって、日本の過剰とも言える高いクオリティのサービスをチップ無しで受けるのは申し訳なって来ている。国際的なルールになりつつあるので、日本も従わなければならないという考えである。
チップを渡すかどうかは人それぞれで、額もそこまで負担になる額ではない。日本人も慣れればそこまで煩わしい制度でないことに気づくだろう。
外国人観光客が急増している東京、大阪、京都に北海道。他にも、たくさんあるが、こうした場所でサービス業を営んでいる経営者は是非ともサービスを提供している人達への還元方法としてチップ制度の導入を検討して欲しいと思う。